お腹に赤ちゃんを授かった喜びは何とも代えがたいものですね。妊娠した女性が次に気になるのが、「元気で生まれてきてくれるか?」「心臓や内蔵に病気はないか?」「体に奇形はないか?」などということだと思います。この記事では、赤ちゃんが奇形になる原因について解説します。過度に不安になったりストレスを溜めないためにも、原因について知っておくことが大切です。
奇形とはどういう状態をいう?
先天的に体に異常が見られる状態を言います。多指症、小頭症、ダウン症、結合双生児、手足の欠損など見た目に特徴のある奇形や、心臓や内臓に疾患のある場合なども奇形と言ったりもします。
赤ちゃんが奇形になる原因
妊娠初期の4~7週の時期は、胎児の目、耳、鼻、口、手足の指が明瞭になる時期です。さらに心臓や口蓋、目、手足などに重大な異常が出現しやすい時期でもあるため、この時期に奇形の原因となる外からの因子を体に入れないことが大切です。以下原因を見ていきましょう。
1.遺伝
受精卵は母方のDNAと父方のDNAをあわせ持つ1個の細胞です。その細胞が細胞分裂をくり返し増殖し、受精卵と同じDNAをもつ細胞の集合体である1つの個体となります。このようにして、遺伝情報が親から子へ伝わることを遺伝といいます。父母のどちらか一方に(もしくは両親とも)、多指症や手足の欠損があった場合、高い確率で子に遺伝する可能性があります。
2.染色体異常
染色体の数や構造に異常がある場合に、奇形を伴う障がいが起こります。21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーなどが代表的です。染色体の異常の原因ははっきりとはわかっていませんが、母親の年齢が高いことと深く関係していると言われています。また、前述した遺伝に関わるDNAは、染色体の中にある分子です。つまり、染色体に異常のあるDNAもまた、遺伝する可能性があるといえます。
3.アルコール
妊娠中のアルコールの多飲により赤ちゃんの顔面の奇形、胎児アルコール性症候群をひきおこすことがあります。胎児アルコール性症候群とは知的障がいや発育不全を伴う症状があります。また、見た目の特徴として、短眼裂(目の横幅が狭い)、鼻と口の間が長い、人中(鼻と口の間にある縦の溝)形成不全、上口唇発育不全(上唇が薄く真一文字)、頭が小さいなどの顔貌、加えて知的障がいを特徴としています。
4.放射線
妊娠0~2週(着床前)に放射線が子宮を通過すると流産することがあります。また妊娠2~8週に放射線を浴びると胎児の奇形、8~15週では胎児の精神発達遅延の危険性があると言われています。このような胎児への影響は0.1グレイ以上の被ばくで起こります。これは、X線やγ線を一度に100ミリシーベルト受けた場合に相当します。通常、胸部X線レントゲンで0.4ミリシーベルトの被ばく線量があります。
※0.1グレイ≠100ミリシーベルト
人の内臓などの体内で受ける被ばく線量を、直接的に計測はできないため、0.1グレイ≠100ミリシーベルトとしています。
5.ヒ素や鉛などの化学物質
妊娠中のヒ素の多量摂取で胎児に催奇形、脳障害などの影響が報告されています。食べ物では特にひじきにヒ素が多く含まれています。妊娠中の過剰摂取は控えた方がいいでしょう。鉛に汚染された海水で育った魚を食べてしまったときや、鉛の入った塗料を誤って口に入れてしまった場合などに(通常自然界に存在する鉛の量を極端に超えて摂取した場合)、鉛中毒になる危険があります。
6.ビタミンA過剰摂取
妊娠中にビタミンAの豊富な食べ物を長期間食べ続けること、またはビタミンAのサプリメントを長期間摂取することで胎児の奇形が確認されています。
関連記事 |
▶妊娠初期のビタミンA摂りすぎが赤ちゃんに影響を及ぼす |
7.葉酸不足
葉酸は細胞の分裂に関わる重要な栄養素です。葉酸が不足すると赤ちゃんに神経管閉鎖障害や二分脊椎症が起こる可能性があります。厚生労働省は、妊娠を計画している女性、または妊娠の可能性のある女性は、1日あたりの葉酸必要量に400μg/日を付加することが望ましいと正式に発表しています。
関連記事 |
▶葉酸の働き 不足すると胎児の神経管閉鎖障害や悪性貧血を引き起こす |
8.母体の感染症
母体が風疹などの感染症にかかることで、出生時に赤ちゃんが先天性風疹症候群という障がいをひきおこす可能性があります。
主に妊娠12週までに初めて先天性風疹症候群に感染した母体に見られます。20週を過ぎるとほとんど見られません。
関連記事 |
▶赤ちゃんの奇形の原因 先天性風しん症候群とは?症状と風疹の予防方法について |
9.医薬品
サリドマイド(日本では販売中止となっている)などの催奇性のある薬品、抗がん剤、抗凝固剤を妊娠中の女性が服用することで胎児の奇形が報告されています。
その他の嗜好品-カフェイン
現在、コーヒーや紅茶に含まれるカフェインの影響で、奇形児が生まれるということはありません。しかし、日常的にコーヒーなどのカフェイン入り飲料を多飲している妊婦さんに、流産や早産、低出生体重の赤ちゃんの割合が多いという報告がされています。また、カフェインには興奮覚醒作用や利尿作用があります。寝つきが悪くなったり何度もトイレに行きたくなったりと、ただでさえ子宮が大きくなり膀胱が圧迫されることで、トイレの回数が増える妊婦さんにとっては辛いですね。妊娠中はカフェインを多く含む飲料は控えた方がいでしょう。
また、出産後、授乳中の女性がカフェインを含む飲料を摂取した場合、その0.06~1.5%が母乳を介して赤ちゃんの体内に入ります。授乳中の女性がカフェインを1日に800mg以上摂取すると、乳児突然死症候群(SIDS)が非摂取者に比べて5倍に増えるという報告もあります。コーヒー1杯(150ml)のカフェイン量は約85~90mgですので、度を超えて飲みすぎないように注意が必要です。最近では、カフェインの含まれない、もしくは含まれていてもごく少量のカフェインレスの紅茶やコーヒーも増えてきていますので、授乳中は上手に使い分けていきたいですね。
タバコ
タバコに含まれるニコチンには血管収縮作用があります。全身の血流、さらには子宮の血流が減少から、胎盤や胎児の低酸素状態を引き起こします。さらに、日常的に喫煙習慣のある妊婦さんに、新生児死亡、胎盤早期剥離、流産、前置胎盤、低出生体重の赤ちゃんの発生頻度が高いことがわかっています。妊活中や妊娠の可能性のある方は禁煙することをおすすめします。
参考
厚生労働省:葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果
スタンダード人間栄養学応用栄養学/五明紀春
コメント